【1985年 新任教師Mからの手紙】その2 悪ガキどもとガチンコ勝負の日々

ヤンキーのイラスト 1985 新任教師Mからの手紙

4月13日

 昼過ぎに実習室へ行くと、悪ガキどもが職員室から盗ってきたコーラを飲みながら、どこかで買ってきたカレーを食べていたので、

「実習室でもうビンを割るな」

「食べたゴミはゴミ箱に捨てよ」

「出る時は窓を閉めとけ」

 と言って職員室に戻りました。

 後で実習室へ行ってみると、一応全部守ってくれたので嬉しくなってしまいました。ただし、コーラのビンは万力に挟んで割った形跡がありましたが、彼らなりに後始末がしてありました。

 そんなこんなで、クラスの生徒がいじめられて泣いたので家に連絡したり、その他もろもろ、めちゃくちゃ忙しいです。

 それに加えて、悪ガキどもとどういうわけか付き合いだしてから、めちゃくちゃ口が悪くなってしまいました。

 連中の一人は、篠田組という大きな組の組長の息子です。その子もやんちゃな事をしているけど、いい子です。

 昨日、その子ともう一人の悪ガキと俺と3人で写真を撮りました。悪ガキ2人、とても喜んでおりました。あいつらは寂しいのです。

 私が尊敬するヤクザな先生(木津中学校の先生ではなく、私が3月にバイトした南山城少年の家で働いている先生で親父の友人)の教えの一つである「最近の教師は言葉の使い分けができない」という教訓に基づいて、悪ガキと話す時は汚い言葉になってしまい、そのため職員室では彼らとはあまり口がきけず、困ってしまいます。

 今日は日曜日で、明日からまた事件の連続になると思いますが、何とかやっていきます。

4月15日

 今日、2年生と3年生の技術の授業がありました。

 長々と手紙を書き始めたのですが、なにぶん文章力がないため、収拾がつかなくなったので、改めて要点だけにします。

 3年生の授業で、一人を除いて悪ガキの連中が全員一つのクラスに、当然遅れてではありますが顔を出して、まったく本当に静かに私の授業を聴いてくれました。他の一般の生徒は、学校が荒れているのに便乗して、初めての私に最初、なめた態度をしていたのですが、悪ガキ連中が来る前に、私がほうきを振り回して静かにしてやりました。悪ガキがきてから、私が連中と妙に親しいので、一般の生徒はビビッてしまいました。気持ち悪いくらい私の話を聞いてくれました。

 悪ガキの連中が、授業中、見回りの岡本先生が教室の前を通り、ドアの前で教室の中を伺っているのを察知するやいなや、瞬間的に窓から2、3人飛び出して行ったのですが、何分かすると教室に戻ってきました。

 授業が終わってそいつらによく聞くと、そいつらは自分たちのクラスを抜け出して、わざわざ私の授業を聴きに来た連中であることが分かりました。休み時間に、彼らの担任の先生から、

「うちの生徒が迷惑をかけませんでしたか?」

 などと訊かれて、答えに困ってしまいました。内心は嬉しかったのですが。

 次は2年生の授業だったのですが、3年生に混じっていつも一緒にいる一番根性のすわった悪ガキが、休み時間にわざわざ職員室に私を迎えに来てくれて、そいつも私の授業に出てくれました。その授業が終わった後も、わざわざ担任の先生が私のところに来て、

「うちの小池、すみませんでした。何かしませんでしたか?」

 と申し訳なさそうに私に訊きにきました。小池が来てくれたので、しかもまじめに授業を受けてくれたので、気分がいいのに、謝られてしまいました。悪ガキのあいつら、先生にも見放されてかわいそうです。

 実は、小池の親父と叔父さんの2人とも、私のオトンが担任をしており、私の実家を建てる時に田んぼに土を盛ってくれたのは彼らだったそうです。その時、2人とも小指がなかっとオトンは言っていたのですが。

 今日は技術科実習室のガラスも鍵も無事です。タバコの吸い殻は増えていました。当然、悪ガキどもはそこで休んでいるのですが、実にかわいい話で、準備室の新しく付け替えたばかりのカギが、まんまとヘアーピンで開けられ、その代わりにオモチャみたいな小さなカギがはめられていました。

 笑ってしまいましたが、錠前を開けられるのは西村と篠田組の組長の息子の2人しかいません。聞いてみると、彼らが置いておいた場所から誰かが持っていってしまったようです。2人に探しておくように頼んだあと、とりあえず教頭先生に連絡だけはしておきました。

 学級通信を毎日出し、リーダー会とか何とかで適当に自分に都合よく動いてくれる生徒を可愛がって、その気にさせて育成し、学級を自主的、かつ民主的に運営している先生に、悪ガキ2人と写真を撮ったことを話すと、シラーっと白けた笑いで、ほとんどあざ笑われるし、ワケが分かりません。

 今日、職員室の来客用のソファにドカンとすわってする小池の頭を、何かの話のついでに「そんなアホなことがあるか」と叩いたのですが、小池のアホはニターっと笑ってくれましたし、土足で職員室に入って来てる一人に、俺も上履きを脱ぐからお前も裸足になれ、と言うと一緒に裸足になってくれました。おまけに、

「センセはもーええし、センセは上履き履いてもええでぇ」

 と言ってくれたにもかかわらず、

「アホか、俺は脱ぐと言うたし、お前が帰るまでずっと脱いでる」

 と言い張り、そいつが帰るまで2人とも裸足のままでいたのです。

 それに加えて、そいつが帰る時に、わざわざ私にスリッパを持ってきて、「センセ、これ」とスリッパを差し出してくれました。思わず頭をなでてやりました。

 悪ガキのアホと一緒に生活していたら、私まで本当にアホになってしまい、口も悪くなっております。心配ですが、嬉しいです。 また書きます。

※名前は全て仮名