【1985年 新任教師Mからの手紙】その7 酒と女と自転車と、ドタバタの日々の中で

ギターを弾いている写真 1985 新任教師Mからの手紙

9月16日

 この前、酒を飲みながら手紙を書いて、後で読んだら何を書きたいのかまるで分からない文章だったのでボツにしました。

 何日か前、京都府の技術家庭科の大会があって、郡内の教師が全員参加したのですが、その中に一人、川村芳江という22歳の性格の良さそうな女性がいました。話を聞くと、加茂町に住んでいて、中高と私を知っていたという事でした。高校で剣道、大学でワンゲルをしていたそうで、色は白くありませんが、なかなか可愛いです。

 それにしても最近思うのですが、自分自身の女性のタイプが分からなくなってしまって困っています。川村芳江という子もいい子なのですが、果たしてその子を目いっぱい好きになりきってしまっていいものかどうか。好きになりきれるのかどうか、訳が分かりません。

 9月1回目の連休はお金がなく、自転車で遠出はできませんでしたが、2回目の連休には京都の北端へでも行きたいです。

 こちらは紅葉こそまだですが、もう完全に秋になりました。

9月24日

 運動会があるとかないとか、このところ、雨が降り続いています。

 相変わらず忙しいですが、1学期と比べて学校にいて精神的に気を休める事が出来るようになって、多少楽になりました。

 連休中に、自転車でどこかへ行こうと準備をしていたのですが、雨でボツになってばかりです。

 田代と連絡をとろうとしているのですが、いつも留守で、私が電話した後も向こうから電話をする気配がなく、一緒に自転車でどこかへ行く気がないようです。

 29日は1カ月くらい前からの荒木との約束で、日帰りでどこかへ行くことになっています。

 実は学校に、いわゆる突出グループが2つあり、1つはツッパリで、もう一つはアホのドロボウ・シンナーグループです。

 その中の一番のシンナー常習者の問題児で精神鑑定の結果、精神分裂症と正常の境目という3年の木村と、かつて高田智子にピアノを習っていたという、おとなしくて色が白くてそれなりに美人の一年生の吉本という女の子が付き合っているというのです。私はわけが分かりません。が、無性に腹が立ちます。何に対してなのか分かりませんが。

 放課後、その女の子がハンカチで口を押えながら4階から降りてくるなど、学校でもスケベしてます。タバコの火も女の子に着けさせるらしいです。これを書いてても腹が立って仕方ありません。

 この前の学年会議では、

「お互いがお互いが好きでやっている事だし、木村が完全にラリっている時に吉本と二人っきりになれば、なるようになるに決まっているので、それは危険だ」

 という次元で、とうてい私には理解できませんでした。私の考えが古いのか知りませんが、

「そんなもん、一刻も早く別れさせるべきだ」

 という私の意見も、まるで受け入れてもらえませんでした。

 吉本も、何を男から言われても、それなりに迷いながらも、最後はすべて受け入れてしまいそうな感じの子です。

 私は非常に悲しいです。

 あえて考えないようにしていた事を書いてしまうと、明日も仕事が忙しくてしんどうのに、興奮して寝られそうにもありません。

10月27日

 何となく、夜になると冬の匂いになりだした今日この頃です。

 先日の体育の日に、一人で自転車で秋の京都を見ようと、北部へ行ったのですが、大型トラチックに怯えながら走るばっかりで、まるで面白くありませんでした。

 それにしても、世間は秋で、それなりに面白い事もありそうなのですが、もう一つ夢中になれるような何かがありません。

 この前の手紙に書いた家庭科の川村芳江さんにしても、もう全く会う機会がないので自分の中でも日に日に影が薄くなっていっています。

 木津中学校に石井先生という英語の可愛い先生がいるのですが、年が私より2つも上で残念です。

 それにしても、女性観というか女性に対する見方が変わってきているような気がします。私の女性観が、今までガキ過ぎたような気がするのですが。

 何が何だかまるでよく分からないままに過ぎていった1学期と比べて、2学期はほんの少しだけ、氷山のほんの一角が見えたような気がします。1学期には家と学校との往復の生活で、それでも毎日の仕事にかなり気を使って神経をすり減らして、というだけだったので、まるで自分を発散させることができる機会がなく、悶々としていたのですが、2学期になって余裕が出てくると同時に、考え方もそれなりに変わってきたような感じです。

 物事に対する感受性はそのままに、考え方がよりアダルトに成長したいものです。

 この前、学校の前の道で、ヤクザ同士の殺人事件があって、パトカーがいっぱいだったのですが、よく考えると最近、パトカーを見ても以前に比べてあまり驚かなくなりました。やはりまともに生活しているせいでしょう。

 同じ学年に川辺康子先生という30歳の独身の先生がいます。かなり過激な人で、怒られてばかりいますが、毎日勉強させてもらっています。

 毎日の生活はそれなりに面白く、それらの受動的な面白いことだけで満足してしまわないように、自分に言い聞かせ、金銭的に多少無理をして自転車を買ったように、今度またギターを多少無理をして買ってしまおうかと思っています。

 荒木もこんな事を言っていたような気がするのですが、あくまでも仕事と私生活は混同しない。つまり仕事の時は当然思いっきりさぼらずにするのですが、いつまでもうだうだと仕事ばかりやらずに、さっさと切り上げて、自分の自由な時間に趣味にのめり込む、ということです。そのためにも、何が何でもやりたいし、やっている時は何もかも忘れて楽しいというものがなくてはなりません。いつになるか分かりませんが、どこかのライブハウスで演奏するという夢を捨てないでギターの方も続けたいと思います。

PS. 最近、学校のいわゆる突出グループの行動がエスカレートしています。酒を飲んだり、シンナーを吸ったり、咥えタバコしながら校内をうろついています。その他、消火栓を全開にして校舎を水浸しにしたり、ボヤ騒ぎがあったり。そういえば、この前、一人が酒を飲んで走り回って急性アル中で病院に運ばれました。しかし、実際問題、自分のクラスの学級経営が第一問題なので、そんな事に本質的にかまう余裕がありません。