美魔女のお誘いなら喜んでお受けいたすところですが、不運なことに60歳にして魔女の一撃をくらってしまいました。
これは、初めてぎっくり腰を経験した還暦おやじの、魔女との闘いの記録です。
1日目 魔女の一撃
それは、とある木曜日のこと。
朝食の席につき、椅子を引こうと腰を浮かした瞬間、腰の真ん中よりやや右あたりに、「ピキーン!」と痛みが走ったのです。
ぎ、ぎっくり腰だぁ・・・。
若い頃から腰痛持ちだったので、今までの腰痛とは異なる痛みに、直観でそう判断しました。が、まったく動けない状態ではありません。
朝食をいつも通りに食べたあと、直ちに常備している湿布(ロキソニンS)を張り、痛み止めの薬(イヴA錠)を飲みました。
その後、息子をバス停まで送って、30~40分ほどウォーキングをして帰宅。
薬のお陰で幾分痛みが治まったので、ぎっくり腰について、グーグル先生に訊いてみました。
ドイツでは「魔女の一撃」と言われているそうです。なぜ魔女なのか。悪魔でもよさそうなのに。なんのまえぶれもなく、突然、魔法のように痛みが来るから?
名前の由来は置いといて、ネットで調べてみると「絶対安静にするよりも、動ける範囲で日常生活を過ごした方が、治りは早い」というようなことが書かれてあったので、従ってみることにしました。
それと、ぎっくり腰に効果のあるストレッチ体操を2つ、やってみることにしました。
一つは、うつ伏せから両手で上半身を持ち上げて腰を反らせます。もう一つは四つん這いから片足ずつ床と平行になるように後ろに伸ばします。それぞれ、10秒ほどその姿勢をキープし、10回ほど繰り返します。
その日は午前中デスクワーク。
午後、1時間ほど来客対応した後、再度デスクワーク。夕方車で買い物したあと、夕食の準備。
この辺りからだんだんと痛みがひどくなってきたような感じです。
夕食後、痛み止め薬を飲み、風呂はやめてシャワーを浴び、張り薬を腰に張って早めに寝ました。
本格的な痛みはその夜から始まりました。寝返りをうつたびに、腰に電流がはしるような痛みというか、ナイフを腰にグサッと刺し、そこに電流を流してグリグリ回しているような痛みが襲ってくるのです。腰の筋肉がギューっと引きつり、あまりにも痛くて声も出ません。その代わりに冷や汗が出てきます。
よっぽど家内を起こして救急車を呼んでもらおうかとも思いましたが、少しずつ腰を回転させながら、痛くない態勢を探り、左側を下にして横になると、痛みはスッと消えることが分かりました。
その体勢で目を閉じているとウトウトし。しかし、寝入りばなに無意識のうちに動くと「ビビビーッ!」と腰に電流が・・・。
実質、寝たのは1、2時間ぐらいでしょうか。
2日目 魔女の電撃
朝、布団から出て立ち上がるのがまた一苦労です。
左側を下にして寝ている状態から、ゆっくりとうつ伏せになり、そこからまず両手の肘を立てしばらく腰を伸ばします。この体勢は痛くありません。それから肘を伸ばしてさらに上体反らしのストレットに入ります。
その後、ゆっくりと腰を後ろに引きながら四つん這いになって片足ずつ後ろに伸ばす体操を左右交互にそれぞれ10回繰り返しました。
それから両手で上体を支えながら腰をさらに後ろに引きつつ、右膝を胸の方に寄せてゆっくり、右足を立てた片膝の姿勢になりり、立てた右膝に両手を当てて上体を支えながらゆっくりと立ち上がります。
時計を見ると、うつ伏せから立ち上がるまで30分かかっていました。
腰に手を当ててゆっくりゆっくり、何とか歩けました。
ウォーキングも、息子の見送りもとりやめ。
その日は昼前から人と会う約束があったので、痛み止めを飲み、張り薬を張って車ででかけました。
車を走らせている間はそれほど痛みはないのですが、交差点で90度曲がる時にかかるヨコGで「ビビーッ!」と来ます。
昼食もかねてファミリーレストランでの会食です。空いていたのが座敷席でした。腰に負担が少ない正座で座りますが、しばらくすると足がしびれてきたので胡坐になりました。意外にも食事中は痛みはでません。
1時間ほどして、さて帰ろうかと、立ち上がろうとした時に「ビビーッ!」。痛み止めの薬を毎食後飲んでいるにもかかわらず、少しでも腰に負担がかかると、痛みが爆発します。
3日目 魔女の総攻撃
なかなか回復の予兆がありません。
ネットによる新たな情報によると、3日目がもっとも痛いということが分かり、気分はますます凹んでしまいました。
その日も、昼過ぎから人と会う約束が入っていました。
場所はファーストフード店。テーブル席なので座敷よりはましだろうと思っていたのですが、姿勢を少し変えただけで、腰に電流が走ります。3日目がもっとも痛いというのは本当でした。
もしかしたら、椅子の方が腰の負担は大きいかも。話が終わって立ち上がろうとしたときにこの日最大の「ビビーッ!」。しばらく動けません。魔女が総攻撃を始めたようです。
「大丈夫ですか?」
同席した人が声を掛けてくれました。ひきつった顔でなんとか笑いながら、
「だ、大丈夫・・・です・・・、おとといからぎっくり腰で・・・、ハハハ・・・、ぎっくり腰で死ぬことは・・・、ないよう・・、です・・、から・・・」
まだ冗談が言える余裕を見せようとしましたが、相手の方も顔が引きつっています。
腰を真っ直ぐにすると、幾分痛みが治まりました。
「それでは・・・、失礼します・・・」
腰に手を当てながら、車に向かいます。
車に乗る際も、腰に負担がかからないよう、そろーりと乗り込みます。
シートに腰をおろすと「ふーっ」と思わず溜息が出ました。で、シートベルトを締めようと腰を回したら「ビビーッ!」。
ああ~っ、ごめんなさいごめんなさい、私が悪うございました、許して下さい~!。
どうしたらこの痛みは軽くなるんだろう。帰りの車の中で考えました。
酒を飲んで紛らすか? いや、酔っ払っているときはいいけど、後がもっとひどくなりそう。
病院へ行って痛み止めの注射を打つ? いや、今日は土曜日で、午後から閉ってるよ。救急に行くほどでもないしなあ。
いろいろ考えた末、ベルトを強めに締めればなんとかなるのでは、という結論にいたります。
家に帰って早速試します。
Gパンを脱いで張り薬を張り替え、スウェットパンツに履き替えてその上から腰の部分に皮のベルトを強めに締めます。
「おお! これはいいかもしれない」
腰が固定されるため、少しくらい上体を動かしても痛みがきません。
毎食後、痛み止めの薬を飲み、寝る前に張り薬を張り替えて、3日目の夜に備えます。
4日目 魔女の追撃
おや? 寝ている時の痛みはだいぶ回数が減ってきたぞ。
朝も布団の中でストレッチをしてから起きると、痛みもなく立つことができました。
この日は、以前から家族で名護までドライブに出かける計画を立てていました。
「動けるうちは動け!」
「立て! 立つんだぁ、おやじーっ!」
と自らを鼓舞し、痛み止めの薬と張り薬+ベルトで備えは万全、かなぁ。まあ、これくらいしかできませんから。
目的地は沖縄本島北部の名護市。
「ぎっくり腰が痛い状態で名護までドライブかぁ、ドライブって日常生活の一部だったっけ?」
という若干の疑問はありましたが、あまりにも天気がいいので、出かけてしまいました。
念のため、車のシートと腰の間に長さ30cm、太さ7~8cmほどの細長い風船(息子の誕生会の時に使ったバルーンメッセージの「1」)を挟み、腰への負担が軽くなるようにしました。
自動車道を含め往復約2時間あまり車を運転しましたが、運転中は特に痛みが出るようなことはありませんでした。
ただし、車から降りる時が少しだけ辛かったですけど。
ドライブの疲れもありましたので、夜はお風呂に入ることにしました。
水の浮力で腰の負担が軽くなり、とても気持ちいい。
ところが、風呂から上がってしばらくすると、また痛みが。
しかも、これまでよりひどくなっています。
グーグル先生に訊いてみると、
「ぎっくり腰になってお風呂に入ると、血行がよくなるが、その分痛み物質もひろがって余計に痛くなることがかある」
というではありませんか。
「おいおい、先に言ってくれよぉ・・・」
腰の痛みに加えて、ひどい便秘。実は一昨日からお通じがないのです。
これもグーグル先生によると、腰の痛みのせいで、腸の蠕動運動が鈍っているらしいことが分かりました。
就寝前に、昼間かっていた便秘の薬を飲みます。ウ〇チの水分を増やすタイプで、説明書にはまず3錠から始めて、効果が出ない場合は増やせと書いてありますので、きちんと3錠飲んで寝ました。
5日目 魔女の撤退
月曜ですが、公休日。
朝、残念ながらお通じはありません。気配さえありません。いったい私のお腹の中にはどのくらいの㋒がたまっているのでしょうか。想像するのも怖い。
便秘が続くわりにはお腹がそれほど痛くないのも何だか不気味です。
腰の方は幾分痛みが軽くなってきました。腰に負担がかからないように気を付けて動けば「ビビーッ!」という電撃もきません。
昼前から家族で外出します。
昼食は沖縄そばの店へ。座敷席でしたが、胡坐でもわりと楽です。
それから糸満市にある体験農場を見学。オーナーの方のお話を集中して聞いていたせいか、ぎっくり腰のことを忘れていました。
夕方帰宅、そのころにはずいぶんよくなっていました。
そろそろ、魔女も撤退の準備にとりかかったようです。
しかし、相変わらず㋒の気配はありません。
夜、便秘の薬を昨夜の3錠から1錠増やして4錠飲んで床に就きました。
6日目 美魔女の微笑
夜中の3時頃、「大」をもよおし、目が覚めました。下腹部の張りに高まる期待感。トイレに向かうのがこれほど楽しいとは。
はやる気持ちをおさえつつ、腰に衝撃を与えないようにそろーりと便座に座ります。
しばらくすると、でた~。なんという爽快感。出なくなってから5日目ぶりの快挙、じゃなくて快便。しばらくの間、幸福感を味わいながら、布団に潜り込みました。
そして、朝起きて再度トイレへ。
さらに午前中もう一回。
出るものが出る幸せ。
気が付くと、腰の痛みもずいぶん軽くなっているではありませんか。
ようやく、おやじにも美魔女が微笑んでくれました。
まとめ
●ぎっくり腰はめっちゃ痛い。
たぶん「いってぇーっ!」と大声で叫ぶとさらに痛くなると思います。というか、「ううっ」としか声が出せませんでしたから。
●でも、絶対安静はしなくてもいい。
動ける範囲で日常生活をと、整形外科の先生方もおっしゃっています。その方が治るのも早いという統計もあります。
●風呂には入らないほうがいい。
血行がよくなることで痛み物質が広がり、かえって痛くなります。
●3日目、4日目あたりが痛みのピーク。
これを乗り越えればずいぶん楽になります。
●腰の痛みの影響で便秘になることがある。
このまま出なくなったらどうしよう、とマジで心配しました。
私の場合、ほぼ1週間で普通の生活にもどることができました。ただ、腰に負担をかけ続けていると、「ビビーッ!」の気配がしてくるので、その時は上体を反らせて腰を伸ばすようにしています。
予防のため、毎晩寝る前のストレッチも継続していきたいと思います。